院長の曽束です。
当院の手術室には、一般的な美容クリニックにはおそらくあまり置かれていない、ある本格的な医療機器が完備されています。 それは、世界的な医療機器メーカーであるストライカー(Stryker)社製の「TPSシステム電動式骨手術装置」です。
本日は、少し専門的になりますが、なぜ当院がこの機器を導入しているのか、そしてそれが皆様の治療の「仕上がりの美しさ」にどう繋がっているのかをお話しします。
本来は「大病院」で活躍する本格的な手術システム
この「TPSシステム」は、先端の「ハンドピース(持ち手部分)」を付け替えることで様々な用途に対応できる、非常に拡張性の高い医療用機器です。
先端をドリルに変えて骨に精密な穴を開けることはもちろん、アタッチメントを変えれば「ソー(骨を切断するノコギリ)」や「バー(骨を繊細に削るヤスリ)」としても機能します。大学病院や総合病院の形成外科では、顔面骨骨折の治療や、顎の骨を切って輪郭を変えるような大掛かりな手術で頻繁に使用される、まさに「プロ仕様」のシステムです。
では、シグナス形成外科美容外科クリニックでもそのような手術を行うのか?というと、そういうわけではありません。当院では、骨そのものを大きく動かすような骨折や骨切りの治療は、現状行っていないのです。
なぜ、当院に「骨のシステム」が必要なのか?
骨折の治療をしないのなら、なぜ個人クリニックにこのような本格的な機器が必要なのでしょうか。その理由は大きく2つあります。
一つは、「輪郭やふくらみを整える際、軟部組織の操作だけでは限界がある場面」に備えるためです。 お顔の輪郭を理想の形に整えようとした時、脂肪を減らしたり皮膚を引き上げたりするだけでは、どうしても解決できない骨格的な出っ張りやふくらみがあります。そんな時、先端に「バー(ヤスリ)」を装着し、硬性組織(骨)の表面を少しだけ削って整える。軟部組織の操作だけではどうにもならない時のために、そうした細やかな骨へのアプローチの選択肢を持っておく必要があるのです。
そしてもう一つの理由が、「皮膚や脂肪といった『柔らかい組織(軟部組織)』を、どうしても『硬い組織』にしっかりと固定したい場面」があるからです。
「骨膜」への固定と、「アンカー」を使った骨への直接固定
お顔の手術、例えばたるみを強力に引き上げて固定したい時。柔らかいお肉(軟部組織)同士を縫い合わせるだけでは、時間とともに重力や表情の動きに負けて後戻りしてしまうことがあります。
通常、これを防ぐために、骨の表面を覆っている「骨膜(こつまく)」という丈夫な膜に糸をかけて固定します。これは医学的にも非常に理にかなった、十分な強度を持つ一般的な手法です。しかし、骨膜はあくまで「膜」であるため、強い張力によって膜が伸びたり裂けたりしてしまうリスクがゼロではありません。
そこで、より強固で確実な固定が必要だと判断した際に力を発揮するのが、このドリルシステムです。 当院では、骨そのものに極めて小さな穴を開け、そこに「糸付きのアンカー(医療用の小さな錨のようなもの)」を直接打ち込みます。そして、そのアンカーから伸びた丈夫な糸を使って、組織をしっかりと引き上げ、固定するのです。
これは例えるなら、雪山登山やアイスクライミングにおいて、固い氷の壁に直接スクリューやアンカーを打ち込んで体を支えるのと同じ原理です。表面の雪(骨膜)に頼るのではなく、奥にある分厚い氷(骨)に直接アンカーを打つからこそ、後戻りのリスクを極限まで減らした、極めて強固な固定が可能になります。
「いざという時の選択肢」がクオリティを決める
もちろん、すべての手術で骨を削ったりアンカーを打つわけではありません。骨膜への固定で十分なケースもたくさんありますし、この機器の出番がないことのほうが圧倒的に多いです。
……と、ここまでシステムの凄さについて熱く語ってしまいましたが、ここで正直に白状いたします。 4月に当院が開院して約2ヶ月。実はこのドリルシステム、まだ一度も出番がありません(笑)。
しかし、私はそれで良いと思っています。 いつか来るかもしれない、「ここは軟部組織だけでなく、骨から整えたほうが絶対に綺麗に仕上がる」「骨膜ではなく、骨に直接アンカーを打ったほうが確実に長持ちする」と判断する、その一瞬のために。もしこのシステムを持っていなければ、いざという時にその選択肢を選ぶことすらできず、妥協せざるを得なくなります。
ずっと出番がなく、手術室の片隅で眠っていたとしても、「いざという時に、硬性組織(骨)へ直接アプローチできる『最強の手札』を常に準備しておくこと」。
これこそが、形成外科専門医としての私のこだわりであり、妥協のない手術を行うための必須条件なのです。
見えない部分の「基礎工事」を大切に安全への直結と、万が一の対応力
家を建てる時、いくら外壁を綺麗に塗っても、基礎(土台)の工事が甘ければすぐにガタが来てしまいます。お顔の治療も全く同じです。
手術室の片隅で出番を待つこの「TPSシステム電動式骨手術装置」は、表面からは見えない「骨という土台」への処置を完璧に行うための、当院の頼もしい相棒です。
シグナス形成外科美容外科クリニックは、これからも「いかに確実で、自然で、長持ちする結果を出せるか」に徹底的にこだわり、見えない部分の基礎工事(解剖学に基づいた処置)を大切にしてまいります。









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